球体 - 深淵小町

本編
メモ
日記

本編

＊前回までのあらすじ
唐突にめごかの過去回想始まる。

め「海に住む神は樹上の事なんて知らないし必要以上に干渉も出来ない。
　　その一人が昔の私。牢獄の神で、冥界神と泉の女神の子。名はアルリシャ」
彩「ふーん。識めごかは偽名または第二の名だったという訳か」
め「そうだよ。私の真の名前はアルリシャ。これ重要情報じゃないから忘れて良いよ」
彩「分かったよい」
め「私は当時、罪を犯した人間を冥界の更に下にある牢獄に閉じ込め監視する*1看守の役割をしていた。
　　そういう権能だからね」
彩「ふうん」
め「ちなみに刑期を終えたら世界樹に戻れるよ」
彩「へー。捕まるリスク低そうだし、再犯率高そうだな」
め「ふっ、そんな事ないから。スポイルフィアにはこっちの世界で言う魔法みたいなもんがあるけど、私の力でそれ全部没収だから」
彩「お、お前…そんな昔からその能力を濫用してたのか…」
め「生まれ持った能力を生かさない理由は無いでしょ。
　　没収した上で、私が過去に没収した能力を組み合わせて作った、”気力を根こそぎ削ぐ枷”をずーっと繋いで無力化❤
　　こんな無気力で虚無な生活に二度と戻りたくないから、誰も再犯なんてしないよ」
彩「出所した奴に能力は返すの？」
め「全部は返さないかなー」
彩「はあ、信仰いらんから平気とは言え、結構ヘイト溜めそうな、損な役なんじゃなーい？」
め「牢獄に居た事がある奴は皆私を恨んでたよ。でもずっと海に引きこもってて当時は全然知らなかった」
彩「と言うと？」
め「いやー、両親に甘やかされて育ったし、世間知らずの甘ったれだったし。
　　付き合ってた神ひともいたけど、そのせいで永遠にお別れする事になっちゃった」
彩「ん！？あれ、待てよ、めごかちゃん、アンタ、信者やら他の神とトラブル起こしたみたいな事言ってなかったか」
め「あーあれは適当に言った。今実感してると思うけど、話すと長いし」
彩「そこを適当に言ってどうするよ！」
め「はいはい。話の続きねー。
　　なんかある日、何らかの手段で手枷をぶっ壊した奴がいたみたいで、武装して私に襲い掛かって来た。
　　それを庇って、私の恋人は死んだ。刺されたんだ。
　　スポイルフィアの神はこの国の神と同じく、不老だけど死にはする」
彩「…それで？」
め「恋人、名前はサダルメリク――は、心臓を刺されてそのまま死んだよ。
　　しかも最期に『お前に取り返しのつかない傷が付かなくて良かった』なんて言いやがった。
　　普段から私を守ってくれてたけどさあ、そのせいで死ぬなんて馬鹿みたいじゃん！！何であんな事したの！？アイツ！！！
　　自分が死んだら皆が困る事くらい分かってたはずなのに…！！！」
彩「お、おう…そうだね。落ち着きな」
め「それからはもう大騒ぎだったなー。サダルメリクは夢や眠りを司る神だったもんで、スポイルフィアの全存在は眠れなくなった。
　　第三層や第五層の、睡眠だけが唯一の安らぎみたいな奴らを中心に、私は猛烈に恨まれた。
　　治安維持に誰よりも貢献していた私を許せないくらい怒ってたよ。人間だけじゃなく、動物や、神々もね。
　　だから今度は私が牢獄にぶち込まれる番になった。例の枷は付けられたけど、他人の能力を奪う能力は据え置き。
　　私以外に他人の能力をどうこう出来る奴はいなかったからね。
　　言われたよ、『むしろ今の状態の方が司るものに相応しいだろう』って、笑いながらね」
彩「人間だけじゃなくて神も庇ってくれなかったのかー。御両親は？」
め「親は最後まで私を庇ってたし、毎日会いに来てくれたよ。お前は悪くない、彼もお前を恨んでなどいないって。
　　味方は…ほぼこの二人だけだったけど…。
　　で、処遇が決まるまで、牢獄の中で光も音も楽しみも無い生活を送ってたら、ある時急に、私の中の糸みたいな物がぷっつん切れた。
　　それ以降、怒りも不満も、何も無くなった。全部どうでも良くなった。
　　それと同時に、クリュソテミスがどっかから湧いて出て来た。でも、なんかね、クリュソテミスと一緒に居たら、ちょっと気持ちが晴れたんだよ」
彩「凄惨だね…」
め「ふう、長い事語って疲れたから、ちょっとお休み。
　　クリュソテミス戻す」
彩「えっ」